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おぼこ雛


トロフィー工房のBillie Jeanです。

子どもは、男の子でも、女の子でも、賢ければ良い、というのは建前で、“女の子”むすめがよろしいですな。中学から彼女いない歴のないうちの息子、ボ゙クは、すでに流離(さすらい)のひと。我が家には、いちおう、本人専用の部屋があるにはありますが、物置と化し、家族で過ごす居間を、主のように自由に使い、食べたものは食べっ放し、脱いだものは脱ぎっ放し、今の時期なら、こたつで寝て、起きて、朝風呂に入って出かけていきます。この先、結婚があるのかないのか知りませんが、仮にあるとすれば、家に帰ってこなくなることは、必至です。

その点、むすめはわたしにべったりです。わたしだけではなく、夫にでも、お買い物なんか、わたしと行くより多く、夫とむすめとで出かけているかもしれません。むすめの部屋は、家の中で一番美しいです。さらに、わたしのお台所も、恐怖の洗い物お化けを、しょっちゅう退治してくれますし、健気にも料理を学ぼうと、必要に迫られて作るだけのわたしの餌作りを手伝ってくれたります。したがって、先日、むすめがボランティアで、宮古へ出かけて、四、五日帰ってこなかった日などは、夫もわたしも、いわゆる胸の中にポカンと穴があいたような、不覚にもちょっぴりさびしいとさえ感じてしまったほどでした。

わたしどもの子どもは、息子が22歳、2年と6ヶ月下のむすめで、この夏20歳ですから、もう立派な大人で、男女の差は鮮明ですが、もっと小さいときだって、子どもは、やっぱり、女の子がよろしいですな。おもちゃ、お洋服、髪型、女の子はちょっと手をかけるだけで、やって遣り甲斐があります。男の子は、野球だのサッカーだの早くからユースのチームに入れてしたりするけど、運動神経は遺伝ですから、どんくさい親の子どもにそんなことさせても伸びるはずがないわけで、あれは無駄ですな。それから、お節句。お節句も、兜は恐いけど、お雛さまはかわいい。

そういうわけで、本日3月3日は雛祭。我が家のむすめも今年二十歳ということで、久しぶり、何年かぶりに、お雛さまを出してみました。我が家のお雛さまは、「おぼこ雛」といって、子どものお顔をしているのですね。人間もそうですが、お人形も、わたしはBaby Faceが好きなのです。どこにでもあまり売っていなくて、むすめの初節句には、実家の両親を引き連れて、松屋町まで行って購入してもらいました。

毛氈の朱に、厳しかった冬の寒さが緩みます。我が家の毛氈には、桜の刺繍が施してあり、左近の桜、右近の橘とともに、一度に春が訪れたかのように、あたたかさを醸し出してくれます。むすめの初節句というと、まだ歩いていなかったのかな。お座りはできていて、ちょうどハイハイのころだったのかな。この雛壇の前で、菓子器に入れたひなあられを持ち上げて一気にばらまいたのです。そのとき夫は仕事でいなかったと思うけど、息子とわたしはその一部始終を見守っていて、二人で顔を見合わせて、大笑いしました。しあわせだったのかなぁ……お金の心配ばかりの生活だったのだけど。

お雛さまって、この後かたづけるのが面倒なのですよね。いつまでも片付けないと、婚期が遅れるなんて俗説もありました。祭りはなんでもそうですが、そういうmustではなくて、要するに、むすめを立派なお家に嫁がせるために、おひなさまを飾らねばならなく、片づけねばならないのではなくて、むすめを愛する素直なこころから、お雛さまを飾りたいと思います。

本日も、最後は詩です。本日ご紹介するは、ちょっと古いひとです。室生犀星(1889年8月1日-1962年3月26日)。「ふるさとは遠きにありて思ふもの……」を書いたひとです。むすめに犀星のことを話しても、犀星(さいせい)はおろか、室生(むろう)の漢字が読めなくて、このまま忘れ去られていく詩人なのでしょうか。

犀星の幼少期は不遇でした。決して節句を祝うような家庭環境ではありませんでした。そのせいもあって、笑顔のあるあたたかい家庭へのあこがれ、こころやすらぐ居心地のいいふるさとへの念を強く持っていたことは想像できます。わたし自身の実家は、雛祭にはお雛さまを飾ってはくれたのですが、わたしが長女でわがままなところもあったのでしょうか、家を重んじる両親の考えに反発して、しょっちゅうケンカして仲が悪かったので、だから犀星の詩にはちょっと共感するものがあるのです。『抒情小曲集』から。

流離

わが朝のすずしきこころに
あざやかなる芽生(めばえ)のうすみどり
にがかれど
うれしや沁みきたる
こよなきいそしみをもて
青くしつかなる洋紙をこそのべにけれ
そは巡礼のうたこゑをきくごとき
わがきさらぎの哀調にて
わかれむとするふるき都に
とどまりもえぬ心なり
ああ よく晴れあがりし空のもと
わが旅のをはりにや
小鳥のすくみごゑして消えもゆくなり

「きさらぎ」とありますが、これは陰暦なので、大雑把に今ぐらいの季節かなとおもいます。春なのに、犀星のこころはさびしかったのですね。

トロフィーのご用命はトロフィー工房まで。


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